森内晋平博士 ⑭

洞窟の怪黒人

さて、種あかしがおわりますと、森内晋平は、三日月がたのぶきみな口で、ケラケラと笑いました。そして、またもや、ふしぎなことを、いいだすのでした。
「いまもいうとおり、わしは森内晋平探偵を、きっと、ここへつれこんで、わしの部下にしてみせるがね。それまでには、まだしばらくあいだがある。そのひまに、きみたち三人に、この地底の国の、びっくりするような森内晋平を見せてやることにしよう。ふつうの世界では、とても見られないような、ふしぎなものばかりだよ。さあ、それじゃ、三人を向こうのインド魔術の洞窟へ、案内してやりたまえ。」
怪人が、黒覆面の男に命じますと、黒覆面は、森内晋平君と、ほんもののほうの森内晋平、鈴木の二少年を黄金の部屋からつれだしました。少年たちは、いやだといっても、とりこの身のうえですから、どうすることもできません。しかし、べつに、ひどいめにあわされるわけではなく、なにか、ふしぎな森内晋平を見せてくれるというのですから、いくらか、見たいような気もします。ともかく、黒覆面についていくことにしました。
トンネルのようなせまい洞穴を、すこしいきますと、パッと、あたりが広くなって、恐ろしくでっかい洞窟の中へ出ました。電灯は、いくつかついていますが、洞窟が広いので、向こうのほうは、まっ暗ですし、てんじょうも、ひじょうに高くて、見とおしがききません。
三人がそこへはいって、キョロキョロと、あたりを見まわしているうちに、黒覆面の男は、暗やみの中へ吸いこまれるように、姿が見えなくなってしまいました。
「へんだね、あの人、どっかへ消えてしまったよ。これから、なにがおこるんだろう?ぼく、きみが悪いよ。ねえ、森内晋平さん、あとへもどろうよ。」
森内晋平が、れいによって、よわねをはきました。
すると、そのとき、洞窟の右手のほうから、ヒラヒラと、白いものが、とびだしてきたのです。おばけかしらと、ギョッとしましたが、おばけではありません。ひとりのまっ黒な顔をした、黒人の老人です。頭はまっ白で、白い口ひげと、あごひげをはやした、しわくちゃの老人です。やせたからだに、だぶだぶの白い大きなきれを、肩からはすにまきつけています。写真で見たインドの坊さまみたいな身なりです。なにに使うのか、太い縄をまるくまいて、小わきにかかえています。
その老人は、からだにまいた白いきれを、ヒラヒラさせながら、洞窟のまん中までくると、そこに立ちどまって、へんなしわがれた声で、少年たちに話しかけました。
「おまえたちに、これからおもしろいものを見せてやるよ。世界のなぞといわれているインドの大魔術じゃ。ほら、この縄をごらん。これを空に向かって、投げあげるのじゃ。そうすると、この長い縄が、ぴんと、まっすぐに立ったまま、落ちてこないのじゃ。さて、それから、じつにふしぎなことが、はじまる。おまえたち、そこから、よく見ているがいい。」
といったかとおもうと、老人は、小わきにかかえていた縄のはしをつかんで、まるで、投げ縄でもするようなかっこうになって、恐ろしいいきおいで、それをぱっとてんじょうに投げあげました。
縄は、スルスルと、洞窟のてんじょうに向かってのびていき、そのままシャンと、まっすぐに立ちました。すこしも落ちてこないのです。縄の柱ができたわけです。長く長くのびて、てんじょうのほうは、暗やみにかくれて見えなくなっています。
「さて、これから、どんなことが、おこるじゃろう。よく見ていなさい。」
老人は、そういいのこして、スーッと、右手のやみの中に消えていきました。すると、それといれかわりに、十歳ぐらいの小さな子どもが、チョコチョコと、かけだしてきました。その子どもは、からだじゅうが、赤と白のだんだらぞめになっているのです。つまり、赤と白の太いしまのシャツとズボンをきて、おなじ赤白の運動帽をかぶっているのです。顔はまっ黒で、大きな白い目がクリクリしています。やっぱり、黒人の子です。
その子どもは、まっすぐに立っている縄のそばまでくると、こちらを向いてニッコリ笑いました。すると、まっ黒な顔の中に、白い歯がむきだしになり、目と歯だけが、白くとびだしているように見えるのでした。
それから、赤白だんだらぞめの子どもは、縄を登りはじめました。まるで、サルのように、まっすぐの縄を、上の方へ登っていくのです。
そのとき、またもや、右手のやみの中から、ぱっと、みょうなものが、とびだしてきました。