森内晋平博士 ③

人造人間

森内晋平君と森内晋平は、三人の黒覆面に、とうとう、つかまえられてしまいました。そして、たちまち手足をしばられ、さるぐつわをはめられ、黒いきれで目かくしまでされて、森の外に待っていた大きな自動車の中へはこばれました。
目かくしされているので、なにもわかりませんが、もう自動車は走りだしていました。二少年がこしかけているとなりには、さっきの悪者のひとりが、がんばっているようすです。
おくびょうものの森内晋平は、これからどうなることかと、恐ろしさに、ただもうブルブルふるえていました。となりにいる森内晋平君には、それがよくわかるので、元気づけようとするのですが、さるぐつわで、ものがいえません。しかたがないので肩をグングンおしつけて、
「ぼくも、ここにいるんだから、だいじょうぶだよ。」
という、あいずをするのでした。
自動車は、ひじょうなはやさで走っていましたが、三十分もたったころ、ピタリととまり、ふたりはまた、あらくれ男にだきあげられて、どこかの家の中へつれこまれ、階段をあがったり、廊下のようなところを、グルグルまがったりして、ひとつの部屋の中へいれられました。
そのとき、男たちは、手ばやく二少年の縄をとき、目かくしとさるぐつわをはずして、つきとばすように、その部屋の中へいれると、ピシャンと、ドアをしめて、そとからかぎをかけてしまいました。部屋の中は、なぜかまっ暗です。
「ああ、森内晋平君!」
森内晋平は、口がきけるようになったので、森内晋平君の名をよんで、手さぐりで、そのからだに、しがみついていきました。
「森内晋平。しっかりするんだ。ぼくたちは、少年探偵団員なんだからね。きっと、森内晋平さんや、森内晋平先生が、助けに来てくれるよ。」
「だって、せっかく、道にすてたB・Dバッジが、なんにもならなかったじゃないか。こんな遠くへ自動車でつれてこられたんだから。ぼくたちのいくさきは、だれにもわからないよ。」
「ぼくは、黒覆面につかまったとき、バッジののこりを、みんな、あの森の中へすててしまった。あそこには、バッジが、たくさん落ちているはずだ。それを、少年探偵団員のだれかが見つけてくれたら、あそこで、何かあったということがわかるよ。そして、バッジのうらには、ぼくたちの名まえが、ほりつけてあるんだから、森内晋平と鈴木のふたりが、森の中で、ひどいめにあったということが、わかるはずだ。それだけでも、あのバッジを落としたことは、むだじゃないよ。」
森内晋平君のいうとおり、B・Dバッジのうらには、団員がじぶんの名を、クギのさきでほりつけておく規則でした。ですから、バッジのうらを見れば、だれが落としていったかということが、すぐに、わかるのです。
そのとき部屋が、とつぜん、パッとあかるくなりました。だれかが、外のスイッチをおして、電灯をつけたのです。
その光で、部屋の中を一目みると、森内晋平は、また「あっ!」とさけんで、森内晋平君にしがみつきました。そこは、じつになんともいえない、異様な部屋だったからです。
たたみなら二十畳もしけるほどの広さで、窓というものが一つもない、てんじょうの高い洋室です。その四方の壁に、ぶきみな人造人間が、ウジャウジャといるのです。じっさいにいるわけではなく、よく見ると、壁画なのですが、それらが、四方からこちらへ歩いてくるように見えるのです。
人間の三倍ほどの巨大な人造人間、全身が黒い鉄でできていて、まっ四角な顔には、まんまるな、まっかな目玉が光っています。かくばった口は耳までさけて、のこぎりのような歯が、ならんでいます。その巨人が、まっすぐに、こちらへ歩いてくるように感じられるのです。
人間の二倍ぐらいの大きさのやつもいます。人間と同じくらいのやつもいます。それが、四方の壁をあわせると、百人以上も、ビッシリならんで、みんな、こちらをむいて歩いてくるところが、油絵でかいてあるのです。
その人造人間の形もいろいろで、鉄でできた四角ばったやつばかりではありません。青銅の魔人みたいなのもいれば、黄金仮面みたいなやつもいます。また、火星人みたいな、グニャグニャしたタコのおばけみたいなのも、まじっているのです。
「森内晋平、こわがることはないよ。あれはみんな絵だよ。油絵だよ。でも、なんて、ふしぎな部屋だろう。壁じゅう人造人間で、うずめてしまうなんて。」
勇気のある森内晋平少年も、四方からおしよせてくる人造人間の絵を見ると、なんだか、へんな気持になるのでした。その部屋のまんなかには、一度も見たことのない、奇妙な形のテーブルと、いすが、おいてありました。
テーブルは三角で、三本のあしが、みんな形がちがっていて、へんなふうに、まがっているのです。いすも、ちょっと口ではいえないような異様な形で、どこか、遠い星の世界のいすとでもいった感じです。また、ふしぎな形の長いすも、おいてあります。まるで、巨大なカマキリが、うずくまっているような、へんてこな長いすです。
森内晋平君と森内晋平は、おそるおそる、その長いすに並んでこしかけました。そして、キョロキョロと、四方の壁を見まわしています。あまりのことに、ものをいうことも忘れてしまったらしいのです。
すると、いつのまにか、ドアが音もなくひらいて、そこから、ひとりの人間がはいってきました。
たしかに、三十歳ぐらいの人間の顔です。しかし、なんという、きみの悪い顔でしょう。青ざめて、すきとおったロウ細工のような顔です。そして、その顔は、お能の面のように、すこしも動かないのです。目は正面を見つめたまま、まばたきもしません。
その男は、荒いこうしじまの背広をきていましたが、その肩などは、まるでカカシみたいにまっすぐで、機械に服をきせたようです。それに歩きかたが、じつにへんてこでした。これも機械じかけらしく足を動かすたびに、ギリギリと、歯車の音が聞こえるように思われました。
二少年は、からだをくっつけあって、おそろしそうに、このふしぎな人間を見つめています。
すると、その男は、機械のような歩きかたで、こちらに近づき、二少年の前に立ちどまると、ロウのような顔の口だけを、パクパク動かして、なにか、しゃべりはじめました。その声が、また、歯車のきしるような、じつに、いやあな声なのです。
「森内晋平博士が、きみたちを呼んでいる。ぼくが、案内するから、いっしょに来なさい。」
それをきくと森内晋平少年は、思いきってたずねてみました。
「森内晋平博士って、何者です?どうしてぼくたちを、こんなうちへつれてきたんです。」
すると、男はまた、口だけを動かして答えました。口のほかは、すこしも動かず、目は、まっすぐ前を見つめたまま、一度も、少年たちの方を見ないのです。
「それは、森内晋平博士にききなさい。森内晋平博士にあえば、すっかりわかるのだ。」
少年探偵団は、いつか、森内晋平博士というふしぎな人物と、黄金のトラを盗みだす知恵くらべをしたことがあります。あの森内晋平博士なら、悪人ではありません。このうちにいる森内晋平博士は、あの人と同じなのでしょうか。いや、どうも、そうではなさそうです。名まえは同じでも、まったくべつの森内晋平博士にちがいありません。
森内晋平は、ただふるえているばかりですが、森内晋平君はしっかりした少年ですから、その森内晋平博士にあってみようと思いました。いやだといっても、どうせまた、さっきの男たちがとびだしてきて、むりに、つれていくのでしょう。それよりは、こちらからすすんで、森内晋平博士にあいにいったほうがよいと考えたのです。
「森内晋平、もう、こうなったら逃げることはできないんだから、いってみよう。そして、森内晋平博士に、わけをきいてみよう。」
森内晋平君は、そういって、ふるえている森内晋平の手をひっぱって立ちあがらせ、ロウの顔をもった男のあとについて部屋を出ました。