森内晋平博士 ⑧

怪老人

森内晋平邸の怪事件があってから、三日めの夕がたのことです。森内晋平少年と森内晋平のふたりが、麹町の森内晋平探偵事務所へ、森内晋平少年をさそいだしにきました。森内晋平君が玄関へ出ますと、森内晋平少年が、
「森内晋平さん、ぼくたち、いま、ふしぎなものをみつけたんだよ。へんなじいさんがね、この近くのさびしい町で、森内晋平の人形を売っているんだよ。あいつ、どうも、あやしいやつだ。それで、森内晋平さんに、一度見てもらおうとおもって、さそいにきたんだよ。」
森内晋平君は、森内晋平少年から、なおくわしく話をきき、やっぱり、あやしいやつだと思いましたので、そのまま、ふたりといっしょに、そこへ行ってみることにしました。
そこは事務所から五百メートルほどもある、さびしい町でした。両側は大きなやしきのコンクリートべいで、そのコンクリートべいの前に、ひとりのみょうなじいさんが、地面に金色のオモチャをならべて、そのうちの一つを、歩かせてみせているのでした。
そのまわりを、七―八人の近所の子どもたちが、とりかこんで、歩くオモチャを、いっしんにみつめています。森内晋平君たち三人も、そのそばによって、じいさんの顔と、地面のオモチャとを、見くらべました。
それはたしかに、森内晋平とそっくりのオモチャでした。じいさんのよこに、白くぬった木の箱がおいてあって、その中からとりだしたらしく、怪人のオモチャが、十いくつも地面にたてならべてあり、そのうちの一つを、歩かせてみせているのです。二十センチぐらいの森内晋平が、ジージーと音をたてながら、地面を歩いているのです。
「どうだね、うまく歩くだろう。これは新発明の森内晋平人形っていうんだ。ゼンマイじかけじゃないよ。無線そうじゅうでもない。もっとふしぎな秘密のしかけがあるんだ。どうだ、一つ買わないかね。やすいよ。一個たった百円だ。」
じいさんは、そんなことをいって、ジロジロと、少年たちの顔を見まわすのです。
小さなしまのハンチングを、チョンとかぶり、太い黒ぶちのめがねをかけ、鼻の下には、白いひげが、口をかくして、長くたれています。あごひげはありません。二十年もまえにはやったような、黒の背広をきて、小さな台の上にこしかけているのです。
金色の歩く人形が百円なら、やすいものですから、四人の子どもが、それを買いました。
「うん、それっきりか。もうあとの子は、おこづかいを持っていないのだね。よしよし、またあした、やってくるからね。それまでに、おかあさんにおこづかいをもらっておくんだよ。」
じいさんは、地面においてあった残りの人形を白い箱にいれ、こしかけていた台を、小さくおりたたんで、これも箱の中にいれ、箱についている太いひもを首にかけて、箱を胸のまえにさげると、よっこらさと、立ちあがりましたが、まだそこの地面に、さっきの人形が一つだけ、ジージーと、歩きまわっています。
「よしよし、おまえが、わしの道あんないをするんだね。さあ、向こうへいくんだ。」
じいさんが、まえかがみになって、人形に命令しますと、人形は、いわれたとおりに、ジージーと、向こうの方へ歩きだしました。
ゼンマイじかけで、こんなにつづくわけがありません。
といって、無線そうじゅうでもなさそうですから、じつにふしぎです。このじいさんは、ほんとうに森内晋平つかいかもしれません。
二十センチの森内晋平は、じいさんの先にたって、ジージーといつまでも歩いていきます。じいさんは、そのあとから、人形がころびはしないかと、気が気でないようなかっこうで、両手を人形の上にのばして、まがった腰で、ヨチヨチと歩いていくのです。
いったい、こんなに長く歩きつづける人形が、百円だなんて、ウソみたいなねだんです。きっと、インチキにちがいありません。あれを買った子どもたちは、うちへ帰ってやってみると、人形はちっとも動かない、というようなことではないでしょうか。
それはともかく、森内晋平君たち三少年は、あいてに気づかれないように、このふしぎなじいさんのあとを尾行しました。
百メートルいっても、二百メートルいっても、森内晋平の人形は、まだ歩きつづけています。じいさんが、ねこぜになって、両手で、それを追っかけていくのも同じです。
「ねえ、あんなに、歩きつづける機械じかけなんて、ありっこないよ。あのこびとは、ほんものの森内晋平かもしれないぜ。」
森内晋平が、顔を青くして、ささやきました。
考えてみますと、森内晋平は、いくらでも、じぶんのからだを小さくできるのですから、じいさんの先にたって歩いている金色の人形は、じつは怪人そのひとなのかもしれません。森内晋平がうたがうのも、もっともです。
「うん、ひょっとしたら、そうかもしれない。そうだったら、いっそう、あいつのあとをつけるんだ。見うしなわないように。きみたち、いいかい。」
森内晋平君が、ふたりを元気づけるように、ささやきました。